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人通りが消えた駅裏の商店街。駅前は大規模な再開発により巨大ショッピングモールが建設され、その影響で駅裏は見事に寂れた。そのシャッター通りと化した商店街の一角に、インターネットカフェ「モモエ」はある。
まるで秘密基地のような店が、僕のアジトだ。
今から5年前に脱サラしたオーナーが、喫茶店を買い取って開店した、このインターネットカフェ。低料金でのサービスを提供するために、リフォーム費用を抑えたため店内は喫茶店のままだ。各テーブルに簡易の衝立を置き、デスクトップのパソコンを備えただけの設備である。
一応24時間営業だが、オーナーは9時から18時までしか店にはいない。それ以外の時間は、セルフサービスになっている。料金も自己申告だ。それでも、不正をする客はいない。
「ただいま」
学校からの帰宅途中に立ち寄る僕の挨拶は、いつもこれだ。もはや、自分の家も同然と思っている。クラブ活動のように毎日通うことを可能にしているのは、1時間200円という超絶低料金設定のおかげだ。
「彼女が、浩平君が来たら呼んでくれってさ」
「あ、はい」
僕は店内の一番奥の席を見る。そこが彼女、Z(ゼータ)さんの指定席だからだ。
Zさんが何者なのかは知らないが、モモエのヌシ的な存在で、四六時中一番奥の席に座っている。
いつも、淡いピンクに白のストライプが入ったジャージに、何だかかよく分からない絵柄のプリントシャツを着ている。そして、黒縁眼鏡にオカッパ頭。年齢的には20代半ばから後半と思われる。
Zさんはインターネットや様々なシステムに精通していて、常連客は全員、来店すると挨拶をする。
「こんにちは」
僕の声に反応し、画面からこちらに視線を移す。Zさんは僕を認識すると、テーブルの上に置いてあるブルーレイディスクに手を伸ばした。
誰が呼んだのか、本人が名乗ったのか、僕が知る限りでは既にZさんはZさんと呼ばれていた。
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