ノゾキ見

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 19時過ぎにモモエを出た僕は、徒歩で15分の距離にある自宅を目指す。  途中、商店街を抜けた場所にあるコンビニエンスストアに立ち寄り、顔なじみのオバサンと言葉を交わして弁当を買う。その弁当が入った大事なビニール袋を、できるだけ揺らさないようにして歩く。  これが毎日変わらない、僕の行動パターンだ。  真っ暗な自宅。  灯りどころか、物音ひとつしない。  僕がカギを差し込む音だけが虚しく響き、ようやく玄関に明るさが広がる。  父は関東電力の最年少部長であり、エリートコースをトップで快走中。仕事一筋の仕事人間で、深夜にならないと、まず帰ってこない。社畜の中の社畜。キング・オブ・シャチクだ。  僕は廊下の突き当たり、右側にある扉を開きダイニングの電灯と同時にテレビのスイッチを入れる。自宅での孤独に慣れた今では、既に寂しいという感覚は無い。しかし、何となく自分以外の音を求めてしまう。  母は8年前、僕が小学3年生の時に他界した。  でも、僕が仏壇に手を合わせたことは、一度もない。  無意味な3脚の椅子。  僕は自分の定位置であるテレビの正面に座ると、ビニール袋からハンバーグ弁当を取り出した。  弁当にも飽きた。  だけど、他に食べる物といっても、買いだめしてあるインスタントラーメンしかない。料理ができないわけでもないが、後片付けが面倒で料理はしない。  テレビには、今日のニュースが映っている。ニュースキャスターが淡々と事件や事故の原稿を読んでいく。退屈ではあるが、僕的には映像と音さえあれば十分だ。バラエティー番組は、ガチャガチャと煩いから嫌いだ。  最近のニュースは、虐待や育児放棄に関する事件が目立つ。この親たちと、金だけ渡しておけば良いと考えている父と、一体どこが違うのだろうか。うん。たぶん、同じ穴のムジナだ。  この防衛省のホームページを改ざんした犯人の方が、まだいくらか善人に思えてくる。  でも―――  僕は父の期待に応えられなかった。そんなゴミみたいな僕は、こんな扱いを受けても、仕方のない生き物なのかも知れない。  弁当の容器をゴミ箱に捨て、一緒に買っておいたジュースと駄菓子を手にし、僕は2階に続く階段を上った。
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