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「絵になりますよね」
「絶対なるよ、ここに来るのは久しぶりだけど俺はそう思う」
この路線ももうすぐ廃止になる。俺は別に鉄道が趣味では無いが、なんだかんだいって心のどっかで思い入れがあったのだろう。
俺は休みを利用してここに来た。最初は車にしようと思ったが、やっぱり最後なんだからという事で列車に乗ってどっかに泊まる事にした。
次の日は雪だった。寒かったが風景としてはいい、俺はゆっくりと適当に路線近くを歩きながらもう会う事も無い姿を眺める事にした。
そんな適当に歩いた途中に少女はいた。その少女はカメラのピントを合わせてるのか既に構えてる状態だ。
お互い知らない同士ではあるが、俺は彼女の近くで立ち止まりカメラと同じ方向へ顔を向けた。別に深い理由は無い、写真が趣味が選んだ場所だからいいポイントなんだろうなと思っただけだ。
「カメラは用意しないんです?」
「えっ?いや・・・」
話しかけたのは彼女の方からだ、まさか声掛けられるとは思ってなかった。俺は少し驚いて声掛けた彼女の方へ顔を向ける。
正直写真を撮る人って邪魔になるから喋るの嫌そうなイメージがあったから意外だ。
最初にチラ見した時は丸眼鏡と青緑のコートのカメラマンとしか見てなかったが、呼ばれた際にちゃんと顔を向けて見てみると大人しそうで結構美人だ。肌も白く、俺がカメラマンなら撮影してみたい程雪風景に似合う。
「じゃあもしかして地元の方ですか?」
「いや、元かな?」
「昔暮らしていたんですか」
「ああ、昔世話になったもんが無くなるというニュース見てね。普段はへぇなんだけど・・・なんかさ、寂しくなってきてさ」
俺は深いため息をついた。白い煙は本人の心境と同調するかのように静かに、そして悲しげに散って消えていく。
「しかし、こんな寒いのに大丈夫か?」
「いえ、大丈夫です。もうすぐ列車が来ますのでそろそろ準備しないと」
「雪になると結構遅れるんだよ」
「えっ」
「しかもしょっちゅう鹿が線路内に入るから徐行せざるを得ないし」
俺は解説を終えるとここを少し離れる事にする。
「確かこの辺に自販機があったはずだ、何かおごるぞ?」
「い・・・いえいいです!」
少女は断ったが、
「いいからいいから、写真だけだろうがここに興味持ってる人がいて嬉しいよ俺は。何がいい?」
「・・・じゃあコーヒーで」
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