これも一種の両想い?

12/22
前へ
/22ページ
次へ
 とうとう来てしまった。  振り返ると、椙田が早足にこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。  さっきの比ではないほど心臓がおもいっきり大きく鳴った。  硬直しているであろう俺の表情を見て、椙田がほんの一瞬だけ眉をひそめる。  しかし、次の瞬間なんでもなかったようにいつもの表情に戻り、椙田は柔らかな笑顔のままで受付の前、つまり俺の隣で立ち止まった。 「すいません。ちょっと予定より早く来ちゃったんですが、大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫。先生もお待ちよ。ちょっと待ってて、知らせてくるから」  看護師さんはすっと立ちあがって、担当医師の呼びだしコールを鳴らす為に席を立った。 「瀬谷」 「……はい」  反射的に返事をする。椙田は俺の方には目を向けないまま言った。 「これから時間ある?」 「え……あ、うん」 「じゃあ、ちょっとだけ待っててくれる? すぐ終わるから」 「……了解」  俺が小さく頷くと同時に、看護師さんが再び顔を出した。 「椙田君。すぐに先生降りてくるから、診察室Aで待ってて」 「わかりました。じゃあ、瀬谷、あとで」 「……ええ」 「いつもの所で」  そっと囁くように言って椙田は受付の向こうへ消えていった。  いつもの所。  それは病院の傍の散歩コースの中にある緑の空き地。病院帰りに俺がよく立ち寄る場所。  そしてここ最近は、椙田も一緒に立ち寄っていた場所。  俺は椙田が去っていった方向に一瞬だけ目を向け、約束通りいつもの場所へと向かった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加