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とうとう来てしまった。
振り返ると、椙田が早足にこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。
さっきの比ではないほど心臓がおもいっきり大きく鳴った。
硬直しているであろう俺の表情を見て、椙田がほんの一瞬だけ眉をひそめる。
しかし、次の瞬間なんでもなかったようにいつもの表情に戻り、椙田は柔らかな笑顔のままで受付の前、つまり俺の隣で立ち止まった。
「すいません。ちょっと予定より早く来ちゃったんですが、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。先生もお待ちよ。ちょっと待ってて、知らせてくるから」
看護師さんはすっと立ちあがって、担当医師の呼びだしコールを鳴らす為に席を立った。
「瀬谷」
「……はい」
反射的に返事をする。椙田は俺の方には目を向けないまま言った。
「これから時間ある?」
「え……あ、うん」
「じゃあ、ちょっとだけ待っててくれる? すぐ終わるから」
「……了解」
俺が小さく頷くと同時に、看護師さんが再び顔を出した。
「椙田君。すぐに先生降りてくるから、診察室Aで待ってて」
「わかりました。じゃあ、瀬谷、あとで」
「……ええ」
「いつもの所で」
そっと囁くように言って椙田は受付の向こうへ消えていった。
いつもの所。
それは病院の傍の散歩コースの中にある緑の空き地。病院帰りに俺がよく立ち寄る場所。
そしてここ最近は、椙田も一緒に立ち寄っていた場所。
俺は椙田が去っていった方向に一瞬だけ目を向け、約束通りいつもの場所へと向かった。
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