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ほんの一瞬。
音に驚いて声をあげた咲良さん。とっさに離れた身体。
俺があの二人の姿を見たのは、時間にしてみれば、それこそ0.1秒にも満たないかもしれない。
でも、はっきりと見えた。重なった二人の影。唇。
愛おしそうに彼女の髪に絡められていた指先。少し震えていた睫毛。微かな吐息さえ聞こえてきてたような気もする。
違う違う。そこまでわかるほど見てない。想像で話を進めるな。俺。
俺は記憶を振り払うように力一杯頭を振った。
「…………」
でも、その姿は俺の記憶から落ちていってはくれなかった。
いくら頭を振っても、頭から落ちていってはくれなかった。
ずっとずっと離れなかった。
『あんた達、少しは遠慮しなさいよ』
憎らしいことに、クラスの女子が言った、そんな言葉を思いだしてしまった。
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