これも一種の両想い?

8/22
前へ
/22ページ
次へ
 ほんの一瞬。  音に驚いて声をあげた咲良さん。とっさに離れた身体。  俺があの二人の姿を見たのは、時間にしてみれば、それこそ0.1秒にも満たないかもしれない。  でも、はっきりと見えた。重なった二人の影。唇。  愛おしそうに彼女の髪に絡められていた指先。少し震えていた睫毛。微かな吐息さえ聞こえてきてたような気もする。  違う違う。そこまでわかるほど見てない。想像で話を進めるな。俺。  俺は記憶を振り払うように力一杯頭を振った。 「…………」  でも、その姿は俺の記憶から落ちていってはくれなかった。  いくら頭を振っても、頭から落ちていってはくれなかった。  ずっとずっと離れなかった。 『あんた達、少しは遠慮しなさいよ』  憎らしいことに、クラスの女子が言った、そんな言葉を思いだしてしまった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加