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会議室に着くと、魔導師はどこか浮かない顔で言った。
「まあ、かけてくれ」
巫女は椅子に腰かけ、僕もカーペットの上に腰を下ろした。
おや、よく見ると。動物の刺繍が施されていて、いかにも高そうだ。本当にこの上に腰かけてよかったのだろうか。
そっと魔導師に目をやったが、彼女はカーペットなど気にも留めない様子で話を切り出した。
「あまり大きな声では言えんが、この国の将兵も戦争を嫌がっていてな。
賊討伐の話を持ち出した時も、かなり出撃を渋ったのじゃ」
巫女もまた気の毒そうに頷いた。
「この国も度々、災害に巻き込まれていますからね…自分が命を落としたら途絶えてしまう家も多いのでしょう」
魔導師は頷いた。
「恐らく、騎士のほとんどが傭兵を雇って済ませようとするじゃろう。
身分の低い者や財力のない者は出撃するじゃろうが…それとて、劣勢だと逃げ出してしまう」
魔導師には悪いが、まあそうだろうなと納得した。
聖女率いるトゥールズ王国のような宗教国家なら、末端の兵士さえ死ぬことを厭わないだろう。
しかしヴァルク帝国は普通の国だ。近衛の者以外は打算的に皇帝に付き従っているに過ぎない。
魔導師はじっと僕を見た。
「だからこそ前哨戦が全てを握る。圧倒的な火力を見せつけ…賊だけでなく味方にも力を示さないとならん」
なるほど。確かにあの炎の矢をお見舞いすれば、敵ならどんな屈強な戦士といえど腰がひけるし、味方なら士気もあがるだろう。僕はじっと魔導師を見た。
『問題は、どこに連中が現れるか…だな』
「そこは安心せよ」
魔導師が不敵に笑うと、その背後の窓に無数の鳥の影が映った。
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