エピローグ

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 ふたたび腕の中の麗容に視線を戻したシリルは、あらためてその顔を見下ろして、白い頬にそっと触れた。 「笑えるように、なったな」 「はい」  応えたその躰を、ぬくもりを確かめるようにもう一度抱きしめる。焦がれた再会に、リュークもまた、みずから身を委ねた。 『笑わなく、なってしまったのですよ』  その脳裡に、ベルンシュタインの言葉が甦った。あなたを喪った主君の苦悩と後悔は、はかりしれないものだった、と。 『あれほどにおおらかで自由を愛するご性質のあの方が、まるで笑わなくなってしまわれたのです。わたくしどもを責めるでなく、恨むでなく、ただ淡々と、日々の職務をこなされていかれる中で、だれに告げることもなく、ご自身だけを責めておられた。あなたの存在は、ご自分の力だけを頼りに孤独の中で生きてこられたあの方にとって、半身にも等しい、かけがえのないものだったのです』  そう語った侍従長の顔には、翳りを帯びたやるせない憂慮と懊悩が滲んでいた。 『民の幸せのため、国の安寧のために国王ひとりが犠牲になるようなことがあってはならない。そんな国家のありようは間違っている。私はそう思うのです』  あの方は優しすぎる。我慾もなく、ただ責任感のみで今日まで国王としての責務を果たしてきたシリルを、ベルンシュタインはそう評した。そしてリュークの手を取り、真剣な眼差しを向けてこう言った。どうかあの方を、よろしくお願いします、リューク殿。あの方を、幸せにして差し上げてください、と。
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