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照明を落とした室内に、電子音が鳴り響いた。
枕もとで青い光を明滅させるそれを、伸びた腕が無造作に掴む。通話機能をオンにした男は、気怠げに応答した。
「……はい」
「シリル、俺だ」
「なんだ、おまえか。テッド」
男はベッドから身を起こすと、すぐわきのナイトテーブルにあったシガレットケースに手を伸ばした。取り出した1本を口に銜えながら、気のない声でそっけなく応じる。
「おいおい、相変わらずツレねえなあ。せっかくいい儲け話を聞かせてやろうってのによ」
「おまえが持ってくるのは大抵、ただウマいってだけじゃねえからな。割に合わねえ厄介ごとはゴメンだよ」
言いながら、銜えたままの煙草に火を点け、深々と吸いこんだ紫煙を一気に吐き出した。小型画面に現れた熊のようなむさ苦しい髭面が、「まあ、そう言うなって」と悪びれもせずニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「天下のシリル・ヴァーノンともあろう御方が、みみっちいこと言いなさんなって。オレがあんたにババ引かせたことあるか? 今度の依頼は、なかでもとびっきり。マジもんだぜ」
相手の言葉に、男はなおも、どうだかと無関心に肩を竦めた。
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