第7章 追憶

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 人間は、触れれば正確な数値などわからずとも、発熱の度合いをある程度判断することができる。3週間前には理解することのできなかった意味が、いまならばわかる。手当てのたびに、触れると心地いいと感じていた掌の乾いたあたたかさが、いまは驚くほどに熱かった。実際に、みずからの機能のひとつとして内蔵されたセンサーで計った数値も、すでに39度を超えている。短時間のあいだに、その体温は一気に跳ね上がっていた。  出血量が多いにもかかわらず、急激に発した高熱。シリルの躰を抉った銃弾に、なんらかの薬物が仕込まれていたことはあきらかだった。  いつのまにか、シリルは深い眠りに落ちていた。眠った、というより、あきらかに昏睡に近い状態といえた。ともに寝ていても、ほんのわずか、自分が身じろぎをしただけでその気配を察するシリルが、いまは固く目を閉ざし、完全に意識を混濁させていた。 「シリル……」  自分の呼びかけに、これまで必ず応えてきた声が沈黙をとおしている。いまだけでなく、これから先も、ずっと応えることがなかったら。それ以前に、もう二度と彼が目を開けることがなかったら――
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