第7章 追憶

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 荒く、苦しげな呼吸が不安を煽る。だがそれ以上に、その呼吸が途絶えてしまうことが怖かった。  ――陛下……っ。  夢の中で遺伝子保有者(オリジナル)が味わっていた恐怖と焦り。その思いが、はじめて理解できた。  彼を、このまま逝かせてしまうわけにはいかない。  感情が芽生えはじめたばかりのヒューマノイドの中に、強い焦燥と決意の火が灯る。  護らなければ。彼が自分を護りつづけてきてくれたように、今度は自分が彼を護り、救わなければ。  みずからの意志でなにを成すべきかを定めたヒューマノイドは、処置した布が吸った血液から、シリルの体内にまわる毒の成分を検出する。その分析を終えたところで、ふと、顔を上げた。  はっきりとはわからない、どこか、異質な感覚。  それがなにかわからぬまま、リュークは操縦席の向こう側をパッと見据えた。  その全身に、鋭い緊張が奔る。  操縦席側のドアが、ゆっくりとノックされた。
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