第8章 急襲

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 シリルの意識が戻ったのを確認した途端、美貌のヒューマノイドはシリルの胸に顔を(うず)め、そのまま入れ替わるように意識を失った。寝ずの看病による疲労ゆえ、というより、長時間つづいた極度の緊張状態を脱したがゆえの安堵からくるものと思われた。  機内であり合わせの服を裂いて巻いただけだったはずの手当てが、気がつけばきちんとした包帯に替えられていた。なにより、急襲された場所に捨て置いてきたテントとエアマットは新調されており、そのテントの中で意識を取り戻したシリルの腕には、点滴が打たれていた。  体内にまわった毒を中和させる、適確な調合の薬液。  リュークの中に眠るユリウスの知識が、緊急の事態に対応すべく突き動かしたのだろうか。だが、これらの物資や薬剤は、どうしたというのか。  意識を失ったリュークにかわって3日間の出来事をつぶさに語ったのは、いつのまにか――というより、シリルが意識を失った直後に現れたという、ひとりの男だった。マティアスと名乗った巨漢はシリルの同業者であり、見覚えのあるその顔は、ミスリルの飲食店でリュークにちょっかいを出してシリルに叩きのめされた、酔っぱらい集団のリーダー格の男当人のものであった。
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