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「いやあ、まさかあんたがあのシリル・ヴァーノンだったとは。噂に聞くかぎりじゃ、もっと年齢のいった、見るからに極悪人ってえ風情の鬼のような方だとばっかり思ってたもんで」
一見したところ、レスラーか犯罪者崩れといった風体の巨漢は照れたように笑った。シリルにしてみれば、見るからに極悪人然とした相手に鬼畜もどきと思われていたのでは、一緒になって笑う気にもなれなかった。
「まさかこんな若くて男前の兄さんとは思いもしやせんでしたぜ」
昏睡するシリルをテントに運んだのは、このマティアスだという。よくリュークが気を許したものだと思うが、男がシリルの許を尋ねたのには理由があった。ユリウスに関する調査報告のうち、データでの転送が憚られる内容に関して、イヴェールはマティアスに直接、ファイルの運搬を依頼したのだという。
マティアスはタイミングよくと言おうか悪くと言おうか、なにも知らずにデータを届けにやってきて、そのまま今日まで付き合う羽目になった――正確には、とてもそのまま捨て置くことができず、自主的に居残った――ということらしかった。
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