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折りたたみ椅子に座り、肩にひっかけただけのシャツのポケットから煙草を取り出す。口に銜えたそれへ、すかさず火を寄せたマティアスをチラリと見やって、シリルはさりげなく口を開いた。
「それで? もし修理費が発生するような事態になってたら、おまえ、本当にあいつに躰で払わせる気だったのか?」
途端に筋骨隆々とした大男は椅子から転げ落ちた。
「とっ、とんでもねえっ! また兄ィにぶっとばされるなんざ冗談じゃねえっすよ!」
目を剥いて本気であわてふためく男の様子を見て、シリルは苦笑した。
「べつにぶっとばそうと思って訊いたんじゃねえよ。あいつがかけた迷惑は俺の責任だからな。修理費が発生したなら俺が払う。そういう意味だ」
「いや、べつにそんな。そこまでしていただくほどじゃ……。実際、どこもなんともなかったですし」
マティアスはもごもごと歯切れ悪く答えた。
シリルは内心でやれやれと嘆息した。リュークの言う『躰で払う』は、自分にかけられている保険金のことを指しているのだろう。しかし、事情を知らない人間が聞けば、あらぬ誤解を招くとんでもない言いまわしである。今後は言葉の選びかたについても気を配ってやる必要がありそうだと、吸いこんだ紫煙を吐き出した。
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