第8章 急襲

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『嬢ちゃん』――そんな呼称も柔軟に受け容れるようになったのだから、変われば変わるものである。ミスリルで酔っぱらったマティアスに囚われたときの無感動で冷徹ななさまは別人だったかと、錯覚をおぼえる変容ぶりだった。  先刻、冗談まじりに「可愛くなっただろう?」と軽口を叩いたが、マティアスがほだされるのも無理ないことだった。シリルが敵弾に倒れたことで、リュークの中に芽生えはじめていた感情が、さらに大きく揺さぶられた結果であることは間違いない。あんなふうに取り乱した挙げ句、自分からシリルにしがみついて離れなかったことなど、ついぞないことだった。  果たしてそれがいいことなのか、シリルには判断がつけかねた。最初はその部分も含めて面倒を見るつもりでバベル・リゾートなどにも連れていったはずだった。だが、リュークの持つ純真な思いやりとひたむきな優しさが、いったい『なに』に使われようとしているのか。そのあたりが気になりはじめていた。  ひょっとして、『人形』のままでいさせてやるべきだったのではないか。  マティアスとともに食事の準備をはじめるリュークの様子を眺めながら、シリルはふとよぎった思いに瞳の奥を翳らせた。
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