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「正直、今回の案件はあんたにしか頼めねえ。そのぶん、ギャラも破格だ」
画面の中で、テッドは指を開いた右手を思わせぶりに顔のまえに上げて見せた。
「片手かそこらで破格だと? 多少割がいい程度だろうが。大袈裟に言うな」
「バカ、おまえ。桁が違う。プラス、ゼロふたつ。ミリオンだ」
「なにっ!?」
さすがの男も、顔色を変えて眉を跳ね上げた。途端、背後で寝息に混じった「う、ん……」という小さな声とともに寝返りを打つ気配がする。男はチラリと後背に目をやると、手近の椅子の背に掛けてあったローブを羽織って隣室のバスルームへと移動した。
「なんだよなんだよ、今度はどこの女と懇ろになってやがる。行く先々で美女たちの引く手あまたとは羨ましいかぎりだねえ。オレもあんたみてえな色男に生まれたかったぜ」
洗面台の縁に浅く腰掛けるように寄りかかった男のローブ姿を見て、画面向こうのむさ苦しい髭面に下卑た笑いが浮かんだ。
「くだらねえ与太話はほかでやれ。依頼の詳細は?」
「おっと、ようやく本気で聞く気になったか。シリル、あんたいま、どこにいる?」
「ミスリルのはずれだ」
「そりゃまた都合がいい。軍との契約は満了してるか?」
「確認済みのうえで連絡をよこしてるくせに、なにを言ってる」
「いや、まあ、そうなんだがよ。次の契約の話が持ちかけられてるってことはないな?」
「いまのところは未定だな。なんせ、契約が切れたのが昨日の話だ」
おまえが一番乗りだと言われて、テッドは満足そうに鼻の下を指でこすった。
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