青空

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 そしてそれから一月(ひとつき)が過ぎた今、俺はこうして馬に乗せられ刑場へと向かおうとしていた。奉行所は俺の自白…、女連れの中年男とすれ違いざま、博打に負けた帰りということも相俟(あいま)って、この野郎をぶっころして金を奪ってやろう、そう思って普段、身につけていたドスでその野郎を突き刺し、財布を奪った…、という俺の自白を丸呑みしてくれた。女…、おようとの共犯を疑う者もいたようだが…、何よりおよう自身が俺との共犯を思わせるようなそんなそぶりをして見せたことから共犯を疑われたのであろうが、幸いにもおようは遂に真実を語らずで、そうなると俺とおようはその時、初めて再会したわけで、それまでは互いに別々に生きており、それゆえ通り一遍の探索では俺とおようとのつながりがでてくる筈(はず)もなく、結局、俺の自白が採用された。  相変わらず沿道からは罵声(ばせい)が聞こえた。そんな中、沿道に固唾(かたず)を飲んで見守る一人の女の姿が見えた。おようであった。今にも何か言いたげな様子であったが、俺はそんなおように微笑を浮かべると、頭を振った。  何も言うな。これで良いんだ。唯一人(ただひとり)の妹も守ってやれず、女衒(ぜげん)に買われて行くのをただ指をくわえて眺めているしかなかった不甲斐(ふがい)ない兄貴がお前にしてやれるこれが一生で最初で最後の妹奉公、最期くらいは兄貴として格好をつけさせてくれ…、俺はそう念じつつ、妹を見やった。その俺の思いが通じてくれたようで、おようは遂に何も言わなかった。俺は満足気に再び空を見た。やはり空は雲一つない青空のままであった。
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