少年は、夢を見る。

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少年は、夢を見る。

「…………」 (声が出ない……) 気がつけば薄暗い廃屋のような場所にいた。 上を向くと、天井の隙間からこぼれでている差すような光が目をくらませた。 (なんで、) (こんな場所に、いるんだっけ) ぼろぼろの足に履き擦れた靴を見て、何か違和感を覚えた。 (…?) その違和感の意味もわからないことに、また困惑する。 「…(これ…は)、」 腕の中に抱えている大きな袋を目に映して瞬きをした。 「……」 (そうだった。母さんに言われて、倉庫に麦を取りに来たんだった) ……良かった。思い出せた。 安堵して、もう一度しっかり袋を抱え直した。 「お兄ちゃん、遅いんだけど」 苛立ったような声が聞こえる。 振り返ると、倉庫の出口で妹の百合が眉を寄せて扉をドンと強く叩いていた。 「早くしてよ。お母さん待ってるんだから」 「……分かってる。ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」 (……――っ) なんだこれ。何故何故何故何故何故―……。 意志に反して、身体が勝手に歩きだした。 さっきあんなに頑張っても声が出なかったのにどうして…。 「ごめん、母さん。遅れちゃって」 二人で肩で息をしながら、待ち切れずに家の前に立っていた母に謝る。 「気にしなくていいから、さぁ早く中に入りなさい。もうすぐ雨が降りそう」 はーい、と百合が明るい声で答え、俺も頷いて家の中に入る。 「お兄ちゃん、いつもの役割分担ちゃんとやってね」 「……はーい…」 毎朝のように、キッと睨みつけて言われる”これ”に「あーあ」とうなだれながらも、仕方ないと諦め、晩飯の用意をすることにした。
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