つめ

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つめ

雰囲気のある古書店で購入した本は、10年前に流行した推理小説だった。 店頭の一山いくら程のワゴンセールで見かけ、購入したものだ。 家まで待ちきれる筈も無く、公園のベンチに腰掛けて早速読み始める。 成る程、その年の文学賞を総なめしたという触れ込みは伊達ではない。 私は息を付かずにページを次々と捲った。 物語が中盤に差し掛かるところで、ページの間に切られた爪が挟まっていたことに気がついた。 奥深くまで細い三日月状のものが入り込んでいて、取り払う事は厄介だった。 私は舌打ちをする。 古本ではこういった事もあるが、気分のよいものではない。 私はページ数を確認した後、本の間を両手で広げ爪を地面に捨てた。 ぽとり。 爪と一緒に落ちてきたのは、薄い小さな剃刀の刃だった。 私は物語の結末を読むことなく、ゴミ箱に本を捨てて公園を後にした。
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