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彼女は。(少女side)
ぱくり。
むしゃむしゃ。
「うーん、このリンゴすっごくまずい」
『 』
「そうなの。味がしないっていうか、あまみがたりないわ」
むぅと頬を膨らまして少女は棚にリンゴを戻す。
その赤黒く丸い物体は、みすぼらしく壊れ、ほとんど形を成していない棚の中をごろごろと音を立てて転がっていった。
「何かないかな。うー…お腹すいたー。お腹すいたよー!」
『 』
「…意地悪。自分でご飯作れるんなら、最初からそうしてるに決まってるでしょ」
ふん、と鼻をならしてつんつんと不機嫌な表情を浮かべる。
…けれど、それも所詮茶番だ。
何故なら、彼女の身体のつくりを考えれば“空腹はありえない“から。
だから、さっきまで食べ物の形をしているものを興味津々に見つめていた視線は、今は既に全く別のものに注がれていた。
「…………誰か、いないかな…」
大人が誰もいない。
大人どころか子どももいない。
それに、口にできる食べ物はこの世界にはないから、自分で作ることはどうやっても不可能だった。
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