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博士は六十までにはならないだろうが、頭髪は真っ白で、小太りで小男だった。大きな目がクルクル動いて子どもっぽいが、ときおり、への字に口をかみしめると、いかにも頑固そうである。とにかく精力的に見える。
博士は足をふみならして忍の前まで来ると、百八十二センチの忍より二十センチは低い目線から見あげててきた。そして、頭のてっぺんからつまさきまで、しげしげとながめ、おおいに笑いだした。
あまりにぶしつけだったので、彼が所長でなければ、忍は腹を立てていたところだ。これまで他人から容姿をほめられたことはあるが、笑われたことなど一度もなかった。
それでも、いちおう敬礼はする。
それが、礼儀だ。
「本日づけでB3に赴任しました、九龍忍であります。以後、よろしくお願いいたします」
博士はさらに笑う。
「うんうん。わかるとも。しかし、こりゃ、政府も思いきった人選をしたものだなーー新島。君はこの書類に夢の内容を書いて、提出したまえ。今日はもう作業にもどっていい。風間くん。送ってやりたまえ」
後半を新島という収容者や風間に命じる。
風間につれられて、新島は外へ歩いていった。が、出がけに忍と目があったとき、首のつけねまで赤くなって、目をそらした。
それを見て、ふいに博士は真剣な表情になる。
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