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一章 戒め-2
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「おはようございます。マスター。七時です。目をさましてください」
やわらかな女の声が眠りのなかに入りこみ、忍は寝返りを打った。
(母さん?)
そうよ。忍。ずいぶん大きくなったわね。ずっと、あなたに会いたかったのよ。お父さまの期待にそった立派な大人になりましたか?
(はい。母上。士官学校を首席で卒業し、火星開発権をめぐる戦争に出兵しました。殊勲を認められ、大尉にーーでも……申しわけありません。私は今、収容所に……父上の反対を押しきって……)
ああ、いけませんね。あなたが早く起きないからですよ。マスター。もう七時五分なのに。いつもより五分もオーバーしています。起きてください……。
夢のなかの母の声が、しだいに大きくなり、忍は目をさました。お手伝いロボットの丸いボディがクルクルまわりながら、忍を見おろしている。
「おはようございます。本日のマスターの体温、三十五度九分。やや低めです。脈拍、心音、血圧、血糖値、呼吸数、正常値。病原体への感染はありません。脳波は正常ではありますが、シータ波多し。寝ぼけモードと見られます」
「誰が寝ぼけてるだって?」
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