一章 戒め-2

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忍が銀のボールを押しやると、彼女は全身をピカピカ点滅させて笑った。 「ワタシはお手伝いロボット。製造番号RAE00777ーーマスターの命名によるペットネームはゾロメです。マスターの母上ではありません」 「口のへらないヤツだ。着替えの用意をしておいてくれ」 「了解しました」 ゾロメが飛んでいき、忍は浴室に入った。 収容者たちの施設では、共同のシャワールームがもうけられているらしいが、監視兵や教官などの職員が使う中央管理室の建物内には、個室ごとに浴室がついている。 忍のコンパートメントは地下十七階にあり、単身者用のワンルームマンションに似ている。持ってきたのは着替えと日用品ばかりだから、そなえつけの家具以外、なんの飾りもない殺風景な室内だ。 洗面台の前でヒゲをそり、顔を洗うと、忍は鏡に映る自分をまじまじと見つめた。 卵形のりんかくに、まっすぐ通った鼻すじ。二重まぶたの切れ長の双眸。まつげが濃く、薄い口唇は赤く、軍人らしくない女顔だ。白くなめらかな肌が、まぶたにほのかに青い陰影を作り、化粧しているようにすら見える。 母に瓜二つだという。     
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