一章 戒め-2

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退屈なだけの仕事のようだが、忍にかぎっては意外とそうでもない。なんだかわからないが、赴任してきた初日から、異様なくらい収容者たちになつかれているのだ。 畑仕事のときも、レクリエーションのときも、あちこちからお呼びがかかって忙しい。行ってみれば、たいていは、たいした相談ではないのだが、ほっとくわけにもいかない。 初日の所長室でのことがあるから、初めは親しげによってくる収容者を全員、異常性愛者ではないかとかんぐったが、疲れるばかりなので、そのうち気にすることをやめた。 忍が担当グループの畑地まで行くと、収容者たちは、せっせと作業していた。朝は収穫作業だ。作物は劣悪な環境でも豊かに実る遺伝子組み換え品種だ。毎朝、収穫できる。 「おはよう。大尉」 「大尉。おはようございます」 「よう。大尉。今日もいい天気だねぇ」 「大尉。もぎたてのキュウリかじってみるか?」 「教官! 子牛が生まれたんだ。見にこいよ」 声をかけてくる収容者にうなずき、あいさつを返しながら歩いていく。 一週間では三百人全部の顔をおぼえるまでにはいたらない。ほとんどは、おとなしく、正常人と変わらない者ばかりだ。 だが、なかには個性的な連中もいる。 「平林。君はそこで何をしているのだ?」 声をかけると、木かげに寝そべって本を読んでいた男が、めんどくさそうに目をあげた。     
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