一章 戒め-2

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平林郁男は二十八さい。麻薬所持で何度も捕まった男だ。 わりにハンサムで理知的で、そのくせ性格はだらしなく、忍とは正反対である。 「ああ、大尉。今、いいとこなんだ。もうじき終わるよ」 「また図書館の本を勝手に持ちだしたな?」 「うん? なんだって?」 「文献の無許可持ちだしは減点二。怠業は減点六。計八点のマイナスだ」 「はいはい。減点ね。別にいいぜ。今日は働く気分じゃねぇよ」 「気分を優先させていては、社会の一構成員とは言えない。君は頭脳はすこぶるいい。適性検査では、いくつかの上位職業で良好な結果を出している。まじめに働きさえすれば、いくらでも更生できるのだが」 平林のとなりにすわって長々と説教すると、彼は急に本をとじて起きあがってきた。 「なあ、あんた。そんなふうに生きてて、疲れないか?」 「言っている意味がわからないな」 「だろうね。あんたみたいな人が、なんで、こんなとこ来るかね。不思議でならないよ」 「不思議でもなんでも、私は教官だ。午後から作業にもどるなら、怠業の減点を三点に抑えておこう。やる気はあるか?」 「イエッサー!」 サッと敬礼して、平林はクスクス笑った。 「でも、キライじゃないね。ミスター石頭」 どういうわけか、忍も彼のことがキライじゃなかった。     
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