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平林郁男は二十八さい。麻薬所持で何度も捕まった男だ。
わりにハンサムで理知的で、そのくせ性格はだらしなく、忍とは正反対である。
「ああ、大尉。今、いいとこなんだ。もうじき終わるよ」
「また図書館の本を勝手に持ちだしたな?」
「うん? なんだって?」
「文献の無許可持ちだしは減点二。怠業は減点六。計八点のマイナスだ」
「はいはい。減点ね。別にいいぜ。今日は働く気分じゃねぇよ」
「気分を優先させていては、社会の一構成員とは言えない。君は頭脳はすこぶるいい。適性検査では、いくつかの上位職業で良好な結果を出している。まじめに働きさえすれば、いくらでも更生できるのだが」
平林のとなりにすわって長々と説教すると、彼は急に本をとじて起きあがってきた。
「なあ、あんた。そんなふうに生きてて、疲れないか?」
「言っている意味がわからないな」
「だろうね。あんたみたいな人が、なんで、こんなとこ来るかね。不思議でならないよ」
「不思議でもなんでも、私は教官だ。午後から作業にもどるなら、怠業の減点を三点に抑えておこう。やる気はあるか?」
「イエッサー!」
サッと敬礼して、平林はクスクス笑った。
「でも、キライじゃないね。ミスター石頭」
どういうわけか、忍も彼のことがキライじゃなかった。
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