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一章 戒め-1
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その島を初めて見たとき、十八世紀にでも逆行してしまったかのような錯覚をおぼえた。
屋久島から南に百キロほどの距離にあるその島は、二十一世紀なかばに造られた人工島である。
総面積は六百十二平方キロメートル。淡路島より少し大きいくらい。人工島としては、かなり大規模なほうだろう。
二十一世紀の粋を結集して造られたと聞いたから、もっと機械的な島を想像していた。
しかし、輸送機の窓から見おろした島の全景は、まったく自然に発生した島と違わない。
島の海岸線は多くが白い砂浜で、一部が崖になっている。
こんもりとした森の樹木は屋久島から移植された屋久杉だ。それが島をドーナツ状にかこんでいる。
中央には田園が広がり、さらにそのまんなかに、オモチャのブロックみたいな建物がひとにぎりある。
施設と言えるのは、それだけだ。ほかには何もない。
ため息が出るほど、さみしい風景である。
「あれが収容所か」
これから、ここが自分の終生をすごす場所になるのだと思うと、やはり、やるせない。
覚悟はしてきたつもりだが、忍はまだ二十四さいだ。現役の軍人であるかぎり、何十年でも、ここを出ていくことはできない。
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