六章 夢の終わりに-3

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あの黒雲は、ナインスドラゴンが帝都を脱出する日、すでに帝都の空の片隅にかかっていた。あの雲が今は空全体をおおっている。 まるで、ナインスドラゴンの心の不安が、そのまま形になっているかのようだった。 ときおり稲光が走り、白い塔を青白く染める。 「あの塔からキューティーブロンドの匂いがするニャ。でも、にゃんか、また少し匂いが変わってるニャ……」 「急ごう。もう少しだ。たのむぞ。サイレンス」 「まかせてください。ふりおとされないように、しっかり、つかまってください!」 美しい尖塔のたちならぶ夢の都。 真珠のように輝く、なめらかな白い家々が眼下に広がる。 その屋根のあいだを、鳥のように翼のある機械兵や、黒い影ぼうしのようなファントム兵が、大群になって飛んでいた。 ナインスドラゴンは天馬の首にしがみつきながら、おそってくる敵軍に応戦した。機械兵は炎や雷で、ファントムには白竜だけが使える聖なる光の魔法でけちらす。 サイレンスは敵兵のあいだをすばやくぬって、帝都の中心にひときわ高くそびえる塔へむかっていった。 聖女の歌声が刻一刻とかすかになっていく。 聖女の守護が弱まっている。 いつまでもつか、わからない。 「まにあうか?」 「大丈夫! いけます!」 巨大なステンドグラスを体当たりでやぶり、サイレンスは塔のなかへすべりこむ。     
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