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まさに、ギリギリだった。塔内に侵入すると同時に、かすかに聞こえていた聖女の歌声は、さきぼそりになって完全に消えた。
しかし、ナインスドラゴンは塔の緋毛氈をふんで立っていた。封印に阻まれることはなかった。将軍の封印の内側に入りこむことができたのだ。
「上のほうから匂いがするニャ!」
そこは塔の一階だ。
目の前に、らせん階段がある。
機械の衛兵がかけつけてくる。
ナインスドラゴンは剣をぬいた。フランケンやケンタウロスも呼びだし、衛兵を切りふせながら、らせん階段をかけあがっていく。
もうじきだ。
この階段をあがっていけば、あの人に会える。
このさきに、あの人がいる。
らせん階段が果てしなく続くように思えた。
長い長い階段をのぼりつめたさきに、大きな両扉があった。
ナインスドラゴンは力をこめて、扉をひらいた。
一瞬、扉の内からまぶしい光がこぼれた。
「ーー姫!」
最上階は一階がまるごと一室になっていた。
部屋の中央に一人の人間が立っている。
魔神を呼ぶという召喚機を背に立つ姿は、しかし、王女ではない。
ファントム将軍だ。
将軍がたった一人で、ナインスドラゴンを待ちかまえていた。
黒いマント。黒い仮面。
黒いかぶり布で頭髪まで、すっぽりおおっている。
将軍の不吉な姿を、ナインスドラゴンはにらんだ。
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