一章 戒め-1

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軍曹はエリートコースをはずれて左遷されてきた忍に、同情しているようだ。忍はそこまで案じたわけではなかったのだが。 「現在、収容者は何人だ?」 たずねると即時、返答がある。 反重力輸送機は自動操縦になっており、パイロットは手持ちぶさたなのだ。 「およそ二千人であります。二千百数十名でしょう」 「そんなにいるのか。おどろいたな」 「ここだけの話ですが、社会不適合者がいなくなることはありません。これは篠山博士の受け売りですがーー着陸いたします。よろしいですか?」 「やってくれ」 反重力輸送機は機体の幅さえあれば離着陸可能だ。島には発着場さえない。島の北端にある平地が発着場がわりだった。 島が近づくと、巨大なブロッコリーのように見えていた樹木の一本ずつまで見えるようになった。 島の生態系は屋久島に似せて人工的に造られたものだが、自力で飛来したのか、奄美大島や沖縄諸島の動植物も、ちらほらと見える。からみつくように濃い緑のなかに、あざやかな色の鳥が飛んでいる。 忍は宇宙ステーション移住者でこそないが、ドームシティー育ちだ。この未開の森の景色には圧倒された。 昨日まで視界に入ってくるのは、すべてが人造物だった。 強化ガラスの壁。そびえる摩天楼。地下深く続くシェルター。衛星軌道上の宇宙ステーションまで直通の宇宙間エレベーター。     
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