一章 戒め-1

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忍はこうした収容所のなかの一つ、収容所B3に西暦二千八十四年十月七日付けで、更生プログラムの教官として赴任された。つまり、異端レベルBの不適合者の国内三つめの収容所だ。 異端レベルAは植民星送りの重犯罪者だから、国内の収容所では、レベルBがもっとも重度の異端である。どんな更生プログラムにかけても、まず九割がた根治することはない者たちだ。 忍の仕事は教官とは名ばかりであり、じっさいには彼らを植民星へ送るための最後の裁定人といったところである。植民星は実質的に重犯罪者の処刑場だ。送っても送っても倒れていく。労働力は、つねに不足している。 だから、重要な仕事ではある。 ただ変人のなかですごすことは、社会で忌みきらわれることでもある。一度でも、この職についた者は、軍隊のなかで出世の道を絶たれると言われている。 この役に、忍はみずから志願して来た。 二十四という若さで大尉にまで昇進し、将来を嘱望(しょくぼう)されていたのだが。でも、あれ以上、自分をいつわってはいられなかった。 そういう意味では、自分も不適合者なのだと思う。 「九龍大尉。到着いたしました」 ひらかれたハッチから甘い香りが侵入してきたので、少なからず意表をつかれた。甘いというより、さわやかと言うべきか。 香水は特権階級のごく少数の貴婦人だけがつけることができる贅沢品だ。その香料ほどには強くない。     
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