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「前に言った、償いてぇって女の話をしてやる。……その女は母親を殺し、娼婦になった。けど、そこでも三人を殺し、果ては殺し屋に堕ちた。殺しに慣れ過ぎたんだ。心が正常に動くことを忘れちまったんだろう。……けど、殺し屋の世界じゃ、女であることはとにかく邪魔になる。殺し屋ってのは、そういう男社会で成り立ってる。……だから、その女は結局、女である自分を殺した」
「もう喋らなくていいからッ」
イーノは叫んだ。
弾は抜いて、消毒も終わった。
けれど止血が追い付かないのだ。
語りが進むに連れてロウの呼吸が力を失くしていくのがわかった。
イーノの心は、今にも壊れてしまいそうだ。
何で拒絶してしまったのか。
ロウの言う男同志は、けっしてイーノへの拒絶なんかじゃなくて……。
……それは確かな愛情だったのに……。
「ロウッ。ロウッ」
その名を叫びながら、イーノは必死で止血を続けた。
ロウの眼は今にも閉じてしまいそうだ。
「起きろッ。男だろッ」
抱きしめるように、イーノは叫び続けた。
ランタンのオレンジが揺れていた。
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