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と、今度はマフィアの怒鳴り声がした。
イーノはそっとベットを飛び出していた。
恐ろしいことが起きているだろうとは察していた。
足が小刻みに震えて止まらない。
体中から汗が噴き出している。
でも、どうしてだろう。
それでもイーノは笑っていた。
歪ではあったけれども、たしかに笑っていたのだ。
すると、急にマフィアの声が聞こえなくなって、そして再び母の悲鳴が上がった。
ゆっくりと、イーノはリビングに続く扉を開けた。
リビングはオレンジ色の薄明かりだった。
そこで最初にイーノの目に飛び込んできたのは、見知らぬ男だった。
全身黒づくめの格好の、シュッとした立ち姿の男だ。
それがサイレンサー付きのピストルを構えていた。
銃口の向いた先には、泣き叫ぶ母と、そして血まみれになって倒れたマフィアの身体が転がっている。
「何なのよ。アンタ、この人はマフィアよ。こんなことして、アンタ、ただじゃすまないわよッ」
母が男に向かって脅し文句を吐きつける。
けれど、それは、
「そのマフィアに俺は雇われた。コイツが組の金をちょろまかしたもんでな。だから、その落とし前をつけさすために俺が呼ばれたんだ」
と、男に一蹴された。
低い声。けれどどこか透き通ったようにも聞こえる声だ。
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