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男が殺し屋だとは、すぐに察しが付いた。
マフィアやギャングの横行するこの街では、殺し屋も珍しくはない。
その殺し屋が、今、母を殺そうとしているのだ。
《ギイィ》
建てつけの悪さのせいで、今頃になって扉が鳴る。
それで母と殺し屋がイーノに気づいた。
「あの子ッ。あの子を持って行っていいわ。高く売れる。だからッ」
母の涙声は、きっと本心だろう。
それがイーノの中の引き金を引いてくれた。
気がつけばイーノはキッチンへと駆け出していた。
子供のすることだからだろう。殺し屋もただ様子をうかがっているだけで、銃口は母に向いたままだ。
イーノはキッチンから果物ナイフを持ち出して、それを構えて殺し屋の方を向いた。
「イーノ。助けてッ。あいつをッ。それであいつを刺してッ」
母の言葉は混乱しているからか、必死になり過ぎて状況を理解できていないのか。
さっきまで売ると言っていた子供に向かって、今度は相手を刺せと言う。
こんなナイフではとうていピストルに適うはずもないのに。
なんて理不尽。
イーノは駆け出す。
殺し屋の目はとても冷静だ。
イーノは走った勢いに乗せて、果物ナイフを深々と母親の胸に突き刺した。
「……なん、で……、イー……、ノ……?」
泣きながら笑って……。
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