忘れられた絵本

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 私は懐かしさに絵本に手を伸ばす。子供の時に好きだった絵本だ。誰かと奪い合って読んだ記憶がある。あれが誰だったのか思い出さない。  絵本の発行年を見ると、かすれて見えないが、私が産まれた年のようだ。この本は、私と同い年なのだ。  図書館の貸出用のバーコードも剥がれてなくなってしまっている。 ”間もなく閉館のお時間です。27年間本当にありがとうございました。職員一同感謝致しております”  27年間。  私も、図書館も、そしてこの絵本も同じ時間を過ごしてきた。  私と同い年だったのか・・・。私は、同い年の絵本を最後の一冊として借りていく事にした。皆、考える事は同じようで、図書館カードを取り出して、借りていく手続きを職員にやってもらっている。  バーコードが付いていない本は貸出禁止だが、今日は違う。書籍名で処理を行ってくれている。  今日で使えなくなってしまう図書館カードだが、お財布の中に入れてお守りのように持っていようと思う。 「サトザキ様ありがとうございます。返却は1週間後です。よろしくお願いいたします」  いつものセリフがありがたい。  絵本を受け取る。いつものように、一緒に渡した袋に入れてくれる。 「ありがとう。お疲れ様」 「はい。返却先はなくなってしまいますので、どうぞ末永くお手元において下さい」     
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