忘れられた絵本

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「解りました。あっほかの()たちは?」 「大丈夫です。一冊も残さず職員たちが連れて帰ります」 「良かったです」 「はい。気にかけて頂きありがとうございます」  他の常連さん達も本の行く末は気になっていたようで、安堵の声が聞こえてくる。  職員さんは、本の傷一つ一つを慈しむように触ってから、常連さんに渡している。 ---  私が住んでいる家は、団地の中にある。母と二人暮らしだ。 「ただいま」  今日は、母のパートはお休みのはずだ。もしかしたら、人手不足だからって呼び出されたのかもしれない。  ダイニングと呼ぶには少し狭いが、母と二人なら十分の広さがあるテーブルに、借りてきた本を置いて自分の部屋に入る。 「ご飯どうしよう・・・なにか作って・・・その前に、連絡してみよう」  母にメッセージを送っておく。  1時間程度で連絡が来なければ、なにか適当に食べることにしよう。作る気分にならなかったら、外に食べに行ってもいいだろう。  着ている物を脱いでベッドに横になる。  今日の出来事を思い出しながら、枕元においてある読みかけの小説に手をのばす。  あぁ・・・そういえば・・・あの子も本が好きだったな・・・。 --- 「ただいま」  あの娘。     
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