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婚礼の式典は想像を遙かに超えて華々しかった。
両端を麗々しい甲冑に身を包み儀典用の槍を携えた近衛兵達に守られ、結婚相手――セレン王子の手を取りながら、アーチの回廊状になった王城の入口から外へ踏み出すと、迎え出るのは陽気かつ荘厳な楽隊の演奏と、何処が果てとも分からない人の山、そして歓声。
王子と二人、群衆に向かって微笑み手を振りながら、城下町の方まで伸びる真紅の絨毯を歩んでゆく。
世間から隠された閑静な離宮とは真逆な、華々しく賑やかな世界に圧倒されるあまり、私はしばらく微笑むのを忘れて呆然としていた。
「姫、大丈夫ですか?」
つと声を掛けられる。はっとその方を見ると、王子が私の顔を心配そうにのぞき込んでいた。初めて正視した彼の顔立ちは端正で、青年期に移行しつつある、言うなれば少年時代の黄昏にあるような印象を受けた。しみ一つない明るい色の肌に、赤茶色の巻き毛と空色の瞳が良く映えている。
私はこくりと頷き、顔に微笑みを乗せ直す。
そのとき、祝福の歓声に混じって、何か別種の叫び声が聞こえたような気がした。
――罵声だ。
私も、王子の表情も、すぐさま凍り付く。
視線を右方にやると、男が一人人波をかき分けて、こちら側まで進んできているのが見えた。
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