第一章 転校生

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「へー、ここが航太郎(こうたろう)の家なのねー。」 おかしい。 「あ、お風呂と服ありがとう。」 おかしい、どうしてこうなったんだっけ。 今、転校生が僕の家でお風呂に入り、僕の服を着ている。 (こ、これが彼シャツか……?!) 実際、彼女ではないし、ただのスウェットだけれど。 彼女が学校で傘も差さずに雨に濡れていたのを助け、家まで送ると言ったら 「家は……遠くて……。」 と断られ、でもこのままでは風邪を引いてしまうってこで、学校から近い僕の家に来ることになった。 かなり濡れていたからお風呂と、ずいぶん昔に着ていて着なくなった服を貸し、そして現在(いま)に至る《いた》わけだが……。 僕はお客様用のコップに、紅茶を入れ彼女に差し出す。 「あ、これ紅茶ね?ここのは初めて飲むわ。」 (ここの?僕の家ってことか?) 「美味しい!やっぱり天然太陽で育ててるからかしら。」 先ほどから彼女の言うことは少し意味が分からないが、彼女は紅茶を飲む姿も仕草も綺麗で、思わず凝視してしまう。 「ねぇ、航太郎。」 「え?」 凝視していたら、突然くるりとこちらを向かれ、ドキッとした。 「生活するための水はどこからひいてるの?」 「は?」 いきなりの質問に、理解が追い付かない。 いや、それよりも。 「というか、なぜ呼び捨て……。」 「え?駄目だった?」 僕は家族以外の女子に名前で呼び捨てにされたことなんて一度もない。 なのに、彼女は名前を教えた時から呼び捨てだった。 悪いわけじゃないが、彼女に呼ばれるとどうも落ち着かない。 「い、いや……。」 でも嬉しいから、それは黙っておく。 「よかった。私、航太郎とは仲良くなりたいなって。」 花が咲くような笑顔でそんなことを言われたら、大抵の男はイチコロなのではないだろうか。 「せ、生活水のことだったよね!」 これ以上、顔が赤い事がバレないように話を元に戻す。 彼女がなぜそんなことを聞いてきたかは分からないが、とりあえず会話を繋ぐために答えることにした。 「えっと、水は水道会社からひいていて……。」 と思ったが、実を言うと自分自身もよくわかっていない。 (ああ、勉強しておけばよかった……!)
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