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「それにしても……すごい絵本」
壁一面が本棚だ。真ん中の段まで絵本がぎっしり収まっている。本が入っていない棚には、風景画や静物画が飾られている。
マンガ喫茶の絵本版? それとも喫茶店の中の児童図書館?
「読み聞かせ会はどこでしてるんだろう」
店内は薄暗く落ち着いたレトロなインテリアで、子供が好む明るい雰囲気とはほど遠い。
「二階が保育園さながらだから、二階だろうな」
理壱の眠たそうな目が入り口とは正反対の奥を指した。なるほど、そちらに二階へ上がる階段があるらしい。
でも、それを知ってるってことは……。
「理壱も読み聞かせしたの?」
「まさか」
「やっぱり」
理壱がするわけないよね。
そうすると、この店を知ったきっかけはなんだろう。人優しそうなマスターとどうやって知り合ったんだろう。
「おまたせしました。ブレンド二つ」
静かな物音を立ててコーヒーがテーブルに乗せられる。シンプルなコーヒーカップには、レトロな文字で『タモン』とだけ。
「ありがとうございます」
「冷めないうちにどうぞ。……でも、先生が女の子を連れてくるなんてね。なんだか僕が嬉しい」
多聞さんに理壱はへらっと笑う。
「一緒に暮らしてるんですよ」
多聞さんは目を大きくさせて「あら」と白眉が良く似合う目を大きくさせてから、にっこり笑う。
「お嬢さん、この先生はいい人だけど、いい加減だから気をつけなさいよ」
「あの、私……そういうのじゃなくて」
「照れなくていいよ」
「彼女を怯えさせないでください、マスター」
へらへら笑う理壱が言ったそれは、恋人という意味ではなく、一般的な女性を示す言葉だ。だけど、私は異様に顔が熱くなってしまった。
「あら。これは失礼だったね。初々しい子をからかうつもりじゃぁないんだよ」
「いいんですよ。からかい甲斐あるのが彼女のいい所ですから」
「なによ、それ……」
テーブルの下の足を踏んでやると、それでも理壱は機嫌良さそうにへらっと笑った。
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