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1.始まりは五分から
「起きなさいよ、理壱」
ベッドの上で丸まったシーツイモムシを、私はバシバシ叩く。イモムシの正体は、長年の我が家の居候の理壱だ。
「う……ん……。あと五分だけ……月子ちゃん」
昨日の晩、『起こして』って、理壱が頼んできたから起こしに来てやったのに、本人はシーツを頭からかぶってぐずぐずしている。
ムカつく。蹴っちゃおうかな。
ほんとの兄妹じゃないから、それはしないであげよ。
「理壱、五分だけだからね」
シーツから眠たそうな顔を出した、無精髭を生やした理壱がヘラっと笑う。いつもと変わらないヘラっとした表情。
「優しいな、月子ちゃんは」
別に優しくない。頼まれたら嫌って言えないだけ。理壱だって知ってるくせに。
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