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「シエル、もうそろそろ帰りましょう?」
「そうだよ。もう日暮れだし、またおばさんが心配するよ?」
「あ、う~ん……。もうちょっとかも知れないんだけど……」
まだもう少し。そう思ってごねていると、とうとう痺れを切らしたリシャールが手を引っ張って「ほら、あんまり長居してられない場所なんだから」と言ってきた。
「う……、もうちょっと、だめ?」
「だめ」
「リシャールって、前からかっこいいと思ってたんだけど」
「おばさん、シエルがまたここにいたって言ったらどう怒るのかな」
「うぅ……、わかった。じゃあ今日はもう帰るよ」
リシャールに逆らったら、たぶん本当にお母さんにも言われちゃいそうだし。前にきつく怒られたことを思い出しながら、わたしは“書庫”を後にした。
「ていうか、そろそろ諦めたら?」
「うん、小さい頃に見たような気がする……じゃさ。ね?」
「えぇ~? 絶対にあったの! 小さい頃、お祖父様に連れて来てもらって読んだことがあって……」
「わかったわかった、けどさ」
風の吹き荒ぶ丘の上。リシャールに続いていつもはわたしに同調してくれるエトワールまでわたしを止めるようなことを言い始める。
なんとか食い下がろうとしていると、リシャールが頭に大きな手を置きながら笑いかけてきた。それから、少しだけ真面目な顔をして訊いてきた。
「もし、探してる本があるとして。それを読んでシエルはどうするつもりなんだ?」
「どう……するって、」
その質問に対する答えがちゃんと出てこなかったのは、考えがなかったからじゃなくて。
「じゃあ、言ったら手伝ってくれるの?」
「いや?」
「だよね」
……こんな答えしか返ってこないって、わかってしまっているから。リシャールは小さい頃からお兄ちゃんみたいにわたしの傍にいたから、それくらいのことはわかる。
わたしたちの間の空気を察して、エトワールが笑顔を繕って「なんかさ、こういうの宝探しみたいだよね!」とどこか的を射ないフォローを入れてくれる。でも、リシャールの表情はまだ明るくはならない。
「まぁ、帰ろうか」
その言葉を合図に、3人で家路につく。
それでも、わたしは、信じている。この世界には、わたしたち以外の人たちがいる。
下には雲の海が広がって、 周りには何もない孤島。
わたしの世界は、この島だけじゃないんだ、って。
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