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1.潜入捜査官
――尾行されている!
俺は背広のボタンを外し、右腰のベルトに装着している拳銃のグリップを握った。
背後から迫る殺気に似た感覚を察知したからだ。
さっきまでは、そんな気配はまるでなかった。
何者なんだ?
ややこしい商談がやっと片付き、上司の田村主任と会社に戻る途中の出来事だった。
すでに五時過ぎ、退社時間は過ぎてるが、そんなことは日常茶飯事。今日なんか早いほうである。
俺は表向きは、商社に勤めるサラリーマン。普段は、普通に商社の仕事をしている。
本職は政府機関のエージェントだ。何処の省庁の所属かは明かせない。
『○○商事』という商社に入社して一年半。この会社の取引先の企業が、テロ組織に関係が深いため、俺が潜入捜査官として、入社したのだった。
しかし、こんなことは、ここへ入社して以来初めてのことだった。
俺がエージェントだということは、絶対わからないはず。いや、どの世界でも、絶対ってことはないが――。
とにかく、この鬼気迫る気配は、いったい何なんだ。今にも、銃弾が、心臓めがけて飛んできそうな、そんな感覚だった。
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