1.潜入捜査官

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「やっとの思いで、成った商談だよ。少しくらい、引っ張ってやらなきゃね」  田村主任は、ニマニマ笑っている。 「そんな――、業務連絡は?」  俺は何気ない素振りで、主任の方にゆっくり振り返った。 「もうしたよ。君がトイレへ行っているときに」  気配が一瞬ゆるんだと感じたが、すぐにもとに戻った。 「そうだったのですか」  業務連絡なんてどうでもいい。 「そこだよ。左に曲がろう」  主任は親指で、角のコンビニの方を指差した。  そして、今度は主任の方が先にたって歩き出した。  角を左に曲がって程なく、一軒の店の前で停止した。 「ここは――、ママが占いをやってるスナックですよね」 「そうだよ。よく知ってるね」 「いいんですか? まだ社に戻ってないのに、酒なんて」 「バカ、コーヒーを飲むだけだよ。それと占いとな。酒は、業務を終えてからに決まってるだろうが」  そういうと、サッと店の中に入ってしまった。  まあ、人の多い繁華街より、数人程度の店の方が、面倒が少なくて済む。俺はそう考えながらドアを閉めた。  店内には、カウンターがあり、テーブルが三つ。隅の方に占い用の席があった。満席で十人程度の客が座れる規模の店だった。すこし薄暗い感じがするが、占いのための演出なんだろう……。  客は一人もいない。これなら、緊急事態が起きても対処できる。
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