1.潜入捜査官

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「まずは、お清めね」  ママが、ガラス瓶からピンク色した粉を取り出して、田村主任に少量かけた。 「これはね。ピンクソルトっていうヒマラヤ岩塩なの。ヒマラヤ産のものは、浄化作用が高いので、場を清めるのには最高なんですよ」  ママがいった。  テーブルには、入り組んだ文字列が描かれた古紙。その上にカラフルに装飾された石が並べられている。 「今年は、あなた。良い年になるわよ。最高の年かも。独身ならいいお嫁さんに恵まれ、結婚されているなら子宝に恵まれるでしょう」 「結婚かあ。僕まだ独身なんです」  田村主任は、嬉しさのあまり顔から蒸気が吹き出しているように見えた。 「お代と引き換えに、この『神幸薬』をさしあげましよう。きっと、幸福が訪れるでしょう」  テーブルの上にママが薬袋を置いた。  田村主任はニヤけた顔のまま、お札をママに差し出した。  その時、 「そこまでよ。そのままジッとして、動かないで!」  と背後で声がした。 「麻薬所持、および、銃刀法違反で逮捕します」  さっきの若い女性だった。  俺は咄嗟に振り返っていた。  彼女の手には、小銃が握られていた。  それを確認した俺は、腰の拳銃を引っこ抜き、彼女に向いて身構えていた。 「あんた、刑事なのか?」  思わず声にでた。  こんな状況は一度も経験していない。銃を突き合せたのも初めてのことだった。 「みんな入ってきて!」  彼女が叫んだ。  いきなり、ドアが激しく開き、数人の制服警官が、拳銃を構えてはいってきた。私服の刑事も現れた。  ――なんだ。このシチュエーションは、これじゃ、俺が犯人じゃないか? どうなってるんだ……。 「銃を下げて、こっちへ抛りなさい」  鋭い目つきだった。  この気迫、これが、殺気に似た感覚の正体か……。 「あんたら、本物の警官なのか?」  俺は、あえてゆっくり話したつもりだった。 「銃刀法違反? 俺は仕事中だ。それにこれは、正当防衛じゃないか」 「拳銃を持ち歩く一般市民などいない。あなた、何処の『組』の者?」 「俺は……」  といいかけて、声を押し殺した。  俺は、潜入捜査官。ここで、正体を明けせば、せっかく、一年半もの間、誰にも知られず活動してきたのが水の泡になる。  田村主任が、ここにいなかったらなあ……。  俺は思わず唇を噛んだ。
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