アクアマリンの想い

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アクアマリンの想い

 遠くから聴こえる教会の鐘の音を耳にしながら、彼女は広い坂を登り始めた。  坂道を登り始めてすぐ、小洒落た西洋風の大きな家が並びだす。  淡い黄色のモッコウバラが飾る塀の上を、毛艶のいい黒猫がトテトテと歩いていた。深いブルーの目をした子猫だ。  猫は塀から身軽に飛び降りると、家の脇を通り抜けるように作られた小路へと駆けていった。  小路は家々に沿い、くねくねと入り組んでいるが、どれも一つの細い階段に繋がっている。階段は小高い丘の上へと続く。いつしか家々は姿を消し、階段の両脇には鬱蒼とした木々が生い茂り始めた。  樹木に視界を遮られ、ぼんやりと無表情に長い階段を上っていた彼女だったが、まるで今目覚めたかのように目を見開き、何度も瞬きをする。突然、景色が開けたのだ。  青い。空と同化しそうな湾が、眼下に広がっていた。港には停泊中の大きな客船が見える。彼女は浮かない顔をして、その船をじっと見つめていた。  いつの間にか彼女の足元にはさっきの子猫がいて、体を擦り付けていた。彼女が手を伸ばそうとすると、猫はついてこいといわんばかりにピンと尻尾を立てて鳴き、木々の隙間の小路へと吸い込まれていった。
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