プロローグ 出会い

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プロローグ 出会い

目がさめると、ふわふわの感触と、心地よい暖かさに包まれていた。 いつまでもこの夢の中にいたい。 ずっと目が覚めなければいい。 もう感覚さえなくなっていた胸の傷が、柔らかな布に擦れてちりちりと痛むその痛みさえ、不快に思わなかった。 そのくらい大きな幸せに、自分は今包まれている。 冬だというのに全く体が凍えておらず、むしろ春のように暖かい。 もうずっと、このまま、叶うならこのまま眠りたい。 何も考えず、誰ともかかわらず、ずっと。 それが叶うのなら、例え死んでも構わないと思った。 最近悪夢ばかりを見ていたから、久しぶりに神様がご褒美をくれたのかもしれない。 夢だっていい。こんなあたたかさに最後に包まれたのは、確かもう何年も前だ。 ああ、優しい風に乗って、何かとても、素敵な匂いがする。こんなに美味しそうな香りは、生まれてこのかた嗅いだことがない。 不意に、自分のお腹がぐーっと音を立てた。 あれ?お腹すくの?夢の中なのに。ご飯も食べていいの?ああ、でもこの温もりから出るのももったいないな。 でもやっぱりお腹すいたな。ここから少しだけ、少しだけ出よう。すぐ戻るから。 この夢が続きますように、と願いながら、ゆっくりと重たい瞼を開いた。
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