Episode.2 スフェン

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「スフェン、後で手をよく洗えよ。それに、間違っても虫を持ち込むなよ」 「大丈夫だよ。どうせドームに入る前に全身消毒されるんだから」 暁の短く切り上げた赤毛は闇に紛れて見えないけれど、僕を見下ろす鳶色の目はまっすぐだ。暁はいつも強くて正しくて、一片の曇りもないその目を見ると、僕は少し申し訳ない気持ちになってしまう。    * 暁は強いけれど、人のことを否定しない。相手が自分と違う意見でも、「ふーん、そっか(俺はそうじゃないけど)」で済ますことができる。自分とはあまりにもかけ離れた意見の子と適切に距離を取る術も知っているから、誰とでもうまくやれて仲良くなれるし、大人たちからも可愛がられている。 それが偶然、僕のひとつ前に生まれたというだけで、昔から皆の輪に入れない僕と一緒にいて面倒を見てくれる。暁が僕のことを気にしてくれなかったら、僕は輪に入れないどころか、虐められていたかもしれない。 僕が他の子たちから変わり者だと思われるのには慣れているし、もう諦めている。でも、暁が僕といることで同じように妙な目で見られてしまうのは耐えられなかった。本当なら暁は、僕らの年代の中心にいていいはずなのに。
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