Episode.3 暁

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運動が何より苦手で、素早い動きなど滅多にしないスフェンが階段を駆け上がり、一目散に逃げ出した。スフェンの後ろに並んでいた香麗は、今しがた起こったことが理解できないように目を丸くしたまま固まっていた。 普段は大人しく目立たないスフェンの脱走に驚いたのは、俺や香麗だけじゃなかった。その場にいた子たちはもちろんのこと、何より慌てたのは大人たちだ。呆然としている俺たちをよそに、二人の大人があっという間に階段を上ると、外に飛び出したスフェンの後を追いかけて行く。思わず後を追おうとした俺の腕を、残っていた大人が乱暴に掴んだ。 「スフェンは昨日から、今日のことをすごく不安に思ってました。別の日に、改めて連れて来ればいいと思います」 「それは君が決めることじゃない」 「今日は香麗から続ければいいじゃないですか!」 「これはドームに住む全員に課せられたことだ。ひとりを特別扱いすることは、絶対にできないんだよ」
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