Episode.3 暁

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ざわざわと声を上げ始めた他の子たちに残った大人が注意をしても、皆は不安を隠しきれないようだった。でも、やがて大人二人に抱えられ、抵抗する体を引き摺るように連れて来られたスフェンを見て一斉に口を閉じた。 「離して!あの鏡の前に立ちたくない!」 「前の子を見てただろう。痛いことも怖いこともないんだ」 「嫌だ!暁、助けて!」 後ろ手に縛られ、頭を押さえつけられたスフェンは鏡の前に立たされると、ぐっと顔を押しつけられた。それでもなお抵抗するように固く閉じたスフェンの瞼を、鏡の前に立っていた大人が無理矢理こじ開ける。 「止めて!痛い!眩しい!」 「いいから鏡の奥をよく見ろ!」 大人の男三人が声を荒げてスフェンにした行為に、俺は初めて大人が怖いと思った。そう思ったのは俺だけではなかったようで、無言のまま後ろに立っていた香麗が俺の手をぎゅっと握る。はっとして振り返ると香麗の瞳は震え、必死に涙を堪えているようだった。 今まで見たことのない異様な光景に、他の子たちが怯えていることもわかった。皆が言葉を失っているなかで、きらきらと光を弾いたような電子音が鳴り響く。驚いた大人のひとりが勢いよくスフェンを鏡から引き離すと、鏡には『Complete』の文字が浮かび上がっていた。
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