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「暁、いつからバギーの操縦ができるようになったの?」
「シュミレーターで何度もやってるじゃん」
「でも本物なんて」
「俺はいつか船を操縦するつもりでいるんだ。それに比べたらバギーなんて訳ないだろ」
それでも僕たちに逃げるところなんてないことはわかっていた。暁が向かっているのはドームに違いなく、今はとにかくそこに帰るしかなかった。後ろから憑りつかれたように凄まじい勢いで追ってくる大人たちのバギーに何度も砂埃を掛けながら、僕たちは壊れかけた白いドームに戻った。
*
砂に塗れた僕たちが全身消毒もしないままドームへ入ったことに、帰りを待っていた大人たちはとても驚いていた。怒って消毒室に戻そうとする大人の腕をすり抜けて、ベッドルームに駆け込んだ。
部屋に入ると、急いでベッドを動かして扉を塞いだ。そこまですると三人ともへとへとで、ベッドを背に座り込んでしまった。
それでも呼吸が整ってくると、自分たちがしでかした事の大きさがわかってくる。僕のせいで二人を巻き込んでしまったことを申し訳なく思っていたら、なぜか暁と香麗はクスクスと笑いを抑えきれないでいるようだった。
「私、これでも一応は優等生だったのに」
「大人のことを馬鹿にした、似非優等生だったくせに」
「後ろから追ってくる大人の顔を見たの。悔しくて必死そうな顔」
「俺もバックミラーで見た。あいつら運転下手だったよな」
ふふ、とか、あはは、とか普通に笑い合っている二人が信じられなかった。これからどんな仕打ちを受けるのか、僕はとっても怖かったのに。
「暁、香麗、ありがとう。でも、ごめん……」
「謝るなよ。俺たちが勝手にやったんだ。お前は悪くない」
「そうよ。それに大人たちのほうが絶対に酷いわ。あんなふうに三人がかりで嫌がるスフェンのこと押さえつけるなんて、あれは暴力よ」
こうして立て籠もっても、いずれ外に出なければならないことはわかっていた。それでも暁と香麗は、無力な子供である自分たちを意のままにしようとする大人たちに、ひと泡吹かせてやりたかったんだと思う。
でも当然のことながら、すぐ部屋の外に集まってきた大人たちは、早く僕たちに扉を開けさせようとした。頭から怒ることは逆効果だと悟ったのか、代わりに気味が悪いほどやさしい言葉をかけてきた。
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