Episode.4 スフェン

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「そろそろお腹も空いただろう。喉だって乾いているはずだ。少しだけ扉を開けてくれたら、そこから食べものと飲みものを渡すことができる」 「こんなことに時間をかけるのはお互いのためにならないんだよ。香麗、とくに君は、私たちよりずっと賢いんだからわかるよね」 「スフェン、まだ君の力が必要なんだ。あれはただ入り口が開いただけで、船に入るためにも君が必要だし、起動させるのにも君が必要でね。君が出て来てくれたら、暁と香麗を罰するようなことはしないよ。君は二人のことが大好きだろうし、巻き込みたくないだろう?それに暁、君はずっと船が見つかることを楽しみにしていたじゃないか。スフェンと一緒に外に出てきてくれたら、誰よりも先に船へ入れてあげよう」 僕が狼狽えるほど暁と香麗は冷静だったけれど、一夜が明けて、翌日の昼になる頃、大人は僕がいよいよ動揺する恐ろしい話をし始めた。 「スフェン、君がどうしても協力しないのなら、私たちは別の手段に頼るしかない。受精は飽くまでもランダムに行っているけれど、ちゃんと記録はしてある。君がどの卵子と精子から生まれた子供なのか、記録を辿ればわかるんだ。君がこのまま非協力的な態度を取るのなら、私たちは船の扉を開けて起動させるためだけに、生体鍵としての命を作らなくてはならない。でも私たちだってそんなことはしたくない。やさしい君ならわかるだろう。ただ鍵を作るためだけに命を誕生させるなんてことを、私たちにさせないでくれ」 最初から目的を持って作られたもうひとりの僕。望んでもいないのに、千年前に星の民から嫌われた一族の血を引く命。船を動かす用が済んだら、どんな扱いを受けるのだろう。その後の人生に、なんの意味があるのだろう。 「暁……」 もうずっと暁のお腹がぐうぐう鳴っていて、香麗もぐったりしている。僕たちの細やかな抵抗もここまでなのだと、暁も悟ったようだった。残った力を振り絞ってベッドを動かすと、ゆっくり扉を開く。途端に大勢の大人の手が伸びて、僕と暁、香麗を引き離した。
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