Episode.5 暁

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俺は黙って頷いた。でもスフェンは珍しく反抗的な目で大人を睨んだ後、俺が今まで見たことのない冷ややかな顔で笑った。 「あなたこそ僕の機嫌を損なわないほうがいい。僕がいなければ、船を動かすどころか入ることさえできないのに」 まるで別人のような口ぶりに、俺のほうが目を丸くしてしまった。大人は僅かに顔を赤くして唇を噛み、蔑むような目をスフェンに向けた。 「やっぱりお前は裏切り者の血を引く人間だよ。鍵を開けて船を起動すれば、すべての設定を変更できる。そうしていられるのも今のうちだ」 吐き捨てるように言うと、舌打ちをして俺たちから離れて行った。 悪意に溢れた言葉にびっくりした俺をよそに、当のスフェンは顔色ひとつ変えることなく、冷たい目で大人を見つめている。一晩離れていた間に、中身がすっかり入れ替わってしまったんだろうか。戸惑った俺に気づいたスフェンは慌てて俺に振り向くと、いつもの柔らかな笑顔を見せた。 「昨日いろいろ考えたんだ。もう誰からも好かれようなんて思わない」 「お前、あんなに人のこと気にしてたのに」 「いいんだ。でも、暁だけには嫌われたくない……」 緑色の目が僅かに潤み、みるみる頼りない顔になる。なんだ、やっぱりいつものスフェンだ。 「生まれたときからずっと一緒にいるんだ。わかってるよ」
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